2025年03月22日
知的障害は障害年金の対象となる障害です。一方で障害年金を受給するためにはいくつかの条件をクリアする必要があります。ここではその条件について詳しくご説明させていただきます。
障害年金を受給するためには大きく三つの条件をクリアする必要があります。初診日の特定、保険料の納付要件、病状(診断書)が障害年金の等級に該当していることの三つの要件です。
知的障害と障害年金
知的障害とは
知的障害(ちてきしょうがい)は、知能や適応行動において通常よりも著しい遅れが見られる状態を指します。これにより、学習や日常生活のスキルに影響が出ることがあります。知的障害は、通常、生まれつきのものであり、発達期における認知機能の発達に遅れがある場合に診断されます。
知的障害の特徴は以下のようなものです:
-
知的能力の低下:標準的な知能指数(IQ)が70未満であることが一般的です。
-
適応行動の困難:日常生活での自立に必要なスキル(例:コミュニケーション能力、自己管理、社会的適応など)に支障をきたすことがあります。
-
発症年齢:通常、18歳未満で発症し、発達過程で現れます。
知的障害は、その重度によって以下のように分類されることがあります:
-
軽度:独立して生活することができる場合もありますが、支援が必要なこともあります。
-
中度:日常的な支援が必要で、職業訓練や社会参加の支援を受けながら生活します。
-
重度:自立した生活が難しく、24時間の支援が必要です。
-
最重度:非常に高度な支援が必要で、コミュニケーションが困難であることが多いです。
知的障害の原因は多岐にわたります。遺伝的要因、出生時の問題、脳の発達障害、環境的要因などが影響することがあります。適切な教育や支援を受けることで、社会での自立を促すことが可能です。
知的障害と療育手帳
療育手帳(愛の手帳)の区分
神奈川では知的障害はA1(最重度)、A2(重度)、B1(中度)、B2(軽度)の4段階に分かれています。
東京では1度(最重度)、2度(重度)、3度(中度)、4度(軽度)の4段階に分かれています。
療育手帳と障害年金は別の制度ですので療育手帳を持っていなくとも障害年金のお手続きを行うことは可能です。
一応神奈川ではB2(軽度)以上から療育手帳の対象となりますので障害年金におきましてもB2(軽度)以上の状態の場合に障害年金のお手続きを進めていくこととなります。
IQと障害年金
IQは障害年金の審査におきましても一つの審査対象の要素となります。
大まかな基準といたしましてIQ50以下の場合は障害基礎年金1~2級の可能性があるものとして審査が行われます(障害年金のガイドライン)。
一方で70以下50以上の場合でも就労状況、日常生活能力の程度により障害年金の対象となる場合がありますのであきらめずにお手続きを行うことをお勧めいたします。
初診日の特定
初診日の特定の必要性
障害年金を受給するためには初診日を特定する必要があります。
初診日とは当該傷病によって初めて医師また歯科医師の診断を受けた日を言います。
障害年金を受給するために初診日を特定する必要がある理由は初診日を基準に障害基礎年金、障害厚生年金(障害共済年金)どの制度から障害年金が支給されるかが決定されること。
障害年金を受給するためには保険料の納付要件を満たす必要があります。初診日を基準に初診日の前々月までの一定の期間国民年金保険料を支払っている必要があります。保険料の納付要件が障害年金の受給要件となっている理由は障害年金も入院保険などの保険の一種であるためことが起こる前に保険料を支払っている必要があるという理由によります。
原則的に障害年金の請求をするためには初診日をカルテに基づいた証明書その他の資料により特定する必要があります。
知的障害による初診日の特定
知的障害は生来的な障害のため初診日は例外的に誕生日と決まっています。このため他の障害と異なり知的障害の場合にはことさら初診日を特定する必要はありません。
障害認定日
障害認定日とは原則として初診日から一年六か月後の日をいいこの日から障害年金の請求を行うことができます。
一方で知的障害は生来的な障害で初診日が例外的な扱いをされています。このことから障害認定日においても原則とは異なる扱いが行なわれています。
上記のように知的障害による障害年金の初診日は誕生日と決められていますので自動的に知的障害による障害年金の請求は20歳前傷病による障害基礎年金となります。
二十歳前傷病による障害基礎年金とは初診日が20歳の誕生日の前日よりも以前にある障害年金の請求を言います。
そして二十歳前傷病による障害基礎年金の障害認定日は二十歳の誕生日の前々月、または初診日から1年6か月後の日の内、遅い方の日が該当します。
上記のように知的障害による障害年金は基本的に20歳の誕生日から行うことができますので20歳の誕生日を迎える前に事前準備を行うことをお勧めします。
保険料の納付要件
障害年金を受給するためには初診日を基準に一定の国民年金保険料を支払っている必要があります。
一方で知的障害による障害年金の初診日は誕生日と決められていますので保険料納付要件を満たす必要はありません。
なぜなら知的障害による障害年金の請求は20歳前傷病による障害基礎年金に該当し、初診日が20歳前にある場合は国民年金保険料の納付義務がないため保険料の納付要件は問題とならないからです。
病状が障害年金の等級に該当していること
障害基礎年金の等級
知的障害により障害年金を受給するためには障害の程度が障害年金の等級に該当している必要があります。
知的障害による障害年金は20歳前傷病による障害基礎年金として障害基礎年金から支給されます。障害基礎年金は一級と二級の等級がありますので知的障害による障害が障害基礎年金の1級又は2級に該当する場合に障害年金の受給が認められます。
障害基礎年金の一級または二級は下記のような場合に該当します(障害認定基準)。
1級・・・知的障害があり食事や身の回りのことを行うのに全面的な援助が必要であってかつ会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため日常生活が困難で常時援助を必要とするもの
2級・・・知的障害があり食事や身の回りのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であってかつ会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため日常生活であって援助が必要なもの
知的障害の認定にあたっては知能指数のみに着眼することなく日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断されます。
また知的障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは併合認定の取扱いは行わず諸症状を総合的に判断して認定されます。
日常生活能力等の判定にあたっては身体的機能及び精神的機能を考慮の上社会的な適応性の程度によって判断するように努めます。
知的障害による障害年金の受給と就労
精神の障害により障害年金の請求を行う場合就労しているとそのことがマイナスの評価につながると言われていますが知的障害の場合には必ずしもそのようなことはありません。
精神の障害により障害年金を請求する場合に終了している場合にマイナスの評価が行われるのは就労していると日常生活能力が向上したものと判断される場合があるからです。
一方で知的障害の場合には就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず雇用契約により一般就労している場合であっても援助や配慮の下で労働に従事しているなどの場合は障害年金の対象となります。
このため労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上したものとは捉えず、現に労働に従事している者についてもその療養状況を考慮するとともに仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、その他の従業員との意思疎通の状況等を充分確認した上で日常生活能力が判断されます。
知的障害による障害年金の請求と診断書
知的障害による障害年金の請求を行う場合において担当医師が作成する診断書の内容は大変重要な意味を持ちます。
このため担当医師に障害年金診断書の作成を依頼する場合は就労状況や日常生活状況本当の支障が生じている部分をできるだけ明確に伝える必要があります。
知的障害による障害年金の請求において診断書の裏面の「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」は特に重要です。
知的障害の場合は「日常生活能力の程度」は下段の知的障害の欄に記入します。精神の障害と知的障害が併存する場合は医師の判断でどちらかメインの障害の方を記入します。
日常生活能力の判定
日常生活能力の判定は七項目ありそれぞれ四段階で担当医師の判断が行われます。
【四段階の判断】
□できる(A)
□自発的にできるが時には助言指導を必要とする(B)
□自発的かつ適正に行うことは出来ないが助言や指導があればできる(C)
□助言指導をしても出来ないもしくは行わない(D)
【七項目】
(1)知的障害を認めるが社会生活は普通にできる
(2)知的障害を認め家庭内での日常生活は普通にできるが社会生活には援助が必要である(例えば簡単な漢字は読み書きはでき会話も意思の疎通が可能であるが抽象的なことは難しい。身辺生活も一人でできる程度)
(3)知的障害を認め家庭内での単純な日常生活ができるが時に応じて援助が必要である(例えばごく簡単な読み書きや計算はでき、助言などがあれば作業は可能である。具体的指示であれば理解ができ身辺生活についても概ねひとりでできる程度)
(4)知的障害を認め日常生活における身辺の周りのことも多くの援助が必要である(例えば簡単な文字や数字は理解でき保護的環境であれば単純作業は可能である。習慣化していることであれば言葉での指示を理解し身辺生活についても部分的にできる程度)
(5)知的障害を認め身の回りのこともほとんどできないため常時の援助が必要である(例えば文字や数の理解力がほとんどなく簡単な手伝いもできない。言葉による意思の疎通がほとんど不可能であり身辺生活の処理も一人ではできない程度)
※一般的には七項目の(3)~(5)のどれかが付く場合は障害年金の対象となる可能性があります。
知的障害による障害年金と所得制限
知的障害による障害年金は20歳前傷病による障害年金として保険料納付要件は問われません。このため国民年金保険料を支払っていない場合にも障害年金を受給することができます。
そこで制度のバランスをとるため所得制限が設けられており一定以上の所得がある場合は障害年金の半額また全額が支給停止となります。
前年度の所得が4,721,000円を超える場合は障害年金の全額が支給停止となります。
扶養親族がいる場合は扶養親族1人につき所得制限額が38万円が加算されます。
前年度の所得が3,704,000円を超える場合は障害年金の半額が支給停止となります。
こちらも扶養親族がいる場合は扶養親族1人につき所得制限額が38万円が加算されます。
減額される期間は10月から翌年9月の支給分が全額または半額の支給停止となります。
カテゴリ:障害年金の基礎知識